肩関節周囲炎とは、主に加齢によって肩関節に「痛み」や「動かしにくさ」が生じる症状の総称です。この病気は、40代で発症すれば「四十肩(しじゅうかた)」、50代で発症すれば「五十肩(ごじゅうかた)」という俗称で呼ばれる通り、40代50代の方に多くみられます。
肩関節周囲炎は、悪化すると着替えや洗顔といった「肩を上げる日常動作」が難しくなり、QOL(生活の質)が低下していきます。これを放置すると肩関節の可動域の制限に繋がり、治療に長い時間が必要となってしまうため、症状が軽いうちに適切な治療を開始しましょう。
肩関節は、上腕側の骨頭(球状の骨)と肩甲骨の関節窩(かんせつか=骨頭の受け皿となる骨)から構成されています。イメージとしては、浅いお皿に大きなボールが乗っているような不安定な形となりますが、肩関節周りの筋肉や靭帯(じんたい)、関節唇(かんせつしん:軟骨)、関節包(動きを滑らかにする袋)などが支えることによって、幅広く可動できると同時に安定性が保たれています。こうした形状から肩関節は「球関節」とも呼ばれます。
肩関節周囲炎の症状の特徴には「痛み」「関節の動きが悪くなる(運動制限)」「夜間痛」の3つがあります。
初期症状として、肩の奥の方が重く感じるなどの「肩関節の違和感」から始まり、次第に肩(腕)が上がりにくくなり、「顔に手が届かない」「洗濯物が干しにくい」など日常動作に不自由が生じてきます。
肩関節周囲炎は、大きく3つの病期に分かれており、病期によって現れる症状が異なります。
肩関節周囲炎は、名前の通り、肩関節の周囲に炎症が起こることで発症します。肩関節を構成する骨や筋肉・軟骨・靭帯・腱といった周囲組織が炎症を起こす原因について、詳細は今のところ明らかになっていませんが、主な要因には「加齢(老化)」があると考えられています。さらに、肩関節の動きをよくする袋(肩峰下滑液包)や、関節を包む袋(関節包)が癒着すると、強い可動域制限が生じたり(拘縮・凍結肩)、炎症によって筋肉の付着部に石灰が沈着したりすることもあります。
肩関節周囲炎の診断では、同じように肩関節の痛みや可動域制限を認める他の疾患を除外することが大事です。
自覚症状や「いつから痛むのか」など、詳しくお伺いします。
また、圧痛(あっつう:強く押すと痛む)のある部位や、肩関節の動きの状態を確認します。
肩関節に痛みが生じる疾患は、肩関節周囲炎の原因である肩関節の関節包や滑液包(肩峰下滑液包)の炎症以外にも、上腕二頭筋長頭腱炎、切開沈着性腱板炎、肩腱板断裂など複数存在します。そうした疾患との鑑別のために、画像検査で骨や軟部組織の状態を調べます。
肩関節周囲炎は自然治癒するケースもありますが、発症者の約40%は症状が3年以上残るという調査結果もあるため、積極的に治療したい疾患です。
また、放置すると次第に日常生活動作が不自由になるだけでなく、関節内の組織の癒着によって肩関節が動かなくなることもあります。
当院では症状の改善だけでなく、症状悪化・再発防止を見据えて、医師と理学療法士*1が連携しながら、患者様一人一人に合わせたオーダーメイドの治療を行っております。
*1 理学療法士:国家資格であり、動作のエキスパート。医学的リハビリテーションの専門職。
肩関節周囲炎を含む肩関節疾患では、手術をしない治療法「保存的治療」が第一選択となります。肩関節周囲炎では、病期や症状に合わせて治療法を選択します。
肩関節周囲炎を発症したことで、肩関節や腕の動かしにくさを感じるようになり、「このままでは、もっと動かなくなるかもしれない」という気持ちから、焦って無理に動かそうとする方がいらっしゃいます。しかし、痛みが強い「炎症期」に無理やり動かすと、かえって炎症・痛みが長引かくこともあるので、まずは安静を心がけましょう。
炎症期に行った治療により、安静時の強い痛みや炎症が落ち着き、癒着が改善してきたら、リハビリテーション治療を行います。痛みが出ない程度の運動療法で肩関節の可動域の維持・拡大を目指し、症状の悪化予防を目指します。また、肩甲骨の動く範囲が広がると、肩への負担が軽くなるだけでなく、痛みの誘発が減少するので肩周囲の血液循環量も改善します。
*2物理療法:電気・光線・超音波・熱などの物理エネルギーを利用して、炎症や症状の改善、回復を促進する治療法。
「コッドマン体操」は有名なストレッチ体操の一つです。腕を振り子のようにブラブラと動かすことで、肩関節周囲の筋肉の弛緩を図ります。肩関節の隙間が開くことで、軟骨・靭帯の圧力が減り、動かしたときの痛みや可動域の改善が期待できます。
※症状によっては、揺らす方の手に重い物(少し重量のあるダンベル~アイロン、取っ手が付いている500ml程度の洗剤など)を持って行うこともあります。
※重い物を持って行うかどうかは、医師・理学療法士の指示に従ってください。
炎症が落ち着いた回復期では、狭くなった肩関節の可動域を広げることを目的としたストレッチや筋力訓練など、拘縮期よりも積極的に運動していきます。
実はこの回復期こそ、肩関節周囲炎の回復を左右する重要な時期となります。
運動療法(リハビリテーション)は、自己判断で行って良いものではありません。過剰な負荷や無理な動きは、痛み・炎症の再発原因となるため、必ず医師や理学療法士の指導のもと、正しいフォーム・手順で行うことが大切です。
保存的治療を行っても症状が改善せず、日常生活に著しい支障を来している場合には、外科的手術を検討します。硬くなった関節包を剥がして切離することで、肩関節の動きの改善を図ります。
一般的には、麻酔で眠った後に、医師が肩関節に力を加えて動かす「麻酔下徒手的受動術(サイレントマニュピュレーション)」と、関節鏡を用いて4ミリ程度の小さい皮膚切開で関節包を切離する「関節鏡下手術」を併用します。
患者様の状態には個人差がありますが、目安は「約半年~1年」です。
症状を長引かせないためには、症状が軽い段階から患者様お一人お一人に合わせた適切な治療やリハビリテーションを行うことが大切です。
次のような点に注意しましょう。
肩関節の可動域は大きく、さらに肩関節周りには筋肉や筋肉へ栄養補給を行う血管が豊富に存在しています。そのため、肩の血液循環が悪くなると、肩関節に炎症が起こりやすくなると考えられています。
以下のようなポイントを意識して、血流を増やして、肩の局所体温を上げるようにしましょう。
肩関節周囲炎は「四十肩・五十肩」とも呼ばれますが、「痛みや動かしにくさは年齢的なもので、放っておけばそのうち治る」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。
確かに痛みの強い急性期は「安静」が大事ですが、痛みや炎症が落ち着いてきたら積極的に肩関節を動かして、可動域を回復させる必要があります。ただし、無理に動かすと症状悪化や治療期間の長期化に繋がる可能性もあるため、診断のもとに「適切な治療をする」「適切なタイミングで正しい運動をする」ことが重要です。
当院では医師と理学療法士が連携して、再発防止に向け、患者様に合わせたオーダーメイドの治療に取り組んでおります。「腕周りや肩関節がおかしい」と感じたら、一度お気軽に当院までご相談ください。