disease
疾患

一般整形外科膝関節周囲

前十字(後十字)靭帯断裂(損傷)

スポーツや交通事故などで膝に強い力がかかり、膝靭帯が裂けたり傷ついたりすることを「膝靭帯損傷」と呼びます。

膝関節には前後左右に4本の靭帯があり、前側にある靭帯を損傷すると「前十字(ぜんじゅうじ)靭帯断裂(損傷)」、後ろ側にある靭帯を損傷すると「後十字靭帯断裂(損傷)」という疾患名になります。

どちらも主な症状は、膝の強い痛み・腫れです。急性期(受傷から約3週間)を過ぎると、徐々に痛み・腫れなどは軽減していきますが、膝の不安定感が目立ってくることがあります。膝の不安定さを放置すると、半月板や軟骨にも損傷が起こり、痛みの慢性化・腫れに繋がります。スポーツ活動や日常生活に支障を来す可能性があるため、しっかり治療しましょう。お気軽に当院までご相談ください。

膝の靭帯とは?

膝関節は、大腿骨(太ももの骨)・脛骨(けいこつ:すねの骨)・膝蓋骨(しつがいこつ:膝のお皿)の3つの骨から構成されており、さらに大腿骨と脛骨の安定性を保つために、前後左右に4つの靭帯で繋がっています。

膝関節に外から強い力が加わると、外力の方向に応じて、それぞれの靭帯に損傷が生じます。

  • 前十字靱帯(ACL)
    膝関節脛骨の前方から大腿骨側に向かう靭帯です。大腿骨より脛骨が前に出ないよう前後の動きを抑制し、さらに捻った方向に動きすぎないよう制御しています。
    【損傷が起こるときの外力の向き】膝の後面から前方への力
  • 後十字靱帯(PCL)
    脛骨の後方から大腿骨側に向かう靭帯で、前十字靭帯と比べて、約2倍の太さを持ち、強度があるため、「膝の軸」とされます。脛骨が後方へずれないよう動きを抑制し、さらに捻った方向に動きすぎないよう制御しています。
    【損傷が起こるときの外力の向き】膝の前面から後ろへの力
  • 内側側副靱帯(ないそくそくふくじんたい)
    膝の内側にあり、他の靭帯と比べて大きな靭帯で、膝関節の内側の安定性を保つ働きをしています。
    【損傷が起こるときの外力の向き】膝の外側から内側への力
  • 外側側副靱帯(がいそくそくふくじんたい)
    膝の外側にあり、膝関節の外側の安定性を保つ働きをしています。
    【損傷が起こるときの外力の向き】膝の内側から外側への力

前十字靭帯断裂(損傷)の症状・原因

膝の靭帯損傷の中では発生頻度が高い外傷で、スポーツ選手の受傷が多いので、名前を耳にしたことがある方も多いのではないでしょう。

前十字靭帯損傷は自然治癒が難しく、膝の不安定さが永続的に残るため、スポーツ復帰を目標とする場合には外科的手術が必要となるケースが多いです。

前十字靭帯断裂(損傷)の症状

  • 損傷時に「ブチッ」「ブツッ」などの断裂音を感じる
    前十字靭帯が切れた瞬間、ブチッといった断裂音が聞こえることがあります。
  • 膝の強い痛み
    激しい痛みが現れます。
  • 膝の腫れ
    関節内に出血が起こるため、数時間で膝関節の周りが大きく腫れます。
  • 膝に力が入らない・膝の不安定感(ぐらつき)
    痛み・腫れのため、膝の曲げ伸ばしが難しくなったり、膝がぐらぐらするような不安定感が現れたりします。スポーツでは競技を継続できないことが多いのですが、動ける場合に「軽い捻挫」と思い込んで、放置してしまうケースがあります。放置によって、二次的に半月板・関節軟骨の損傷が起こるため、膝の痛みや不安定感がある場合には、一度整形外科をご受診いただくことをおすすめします。

前十字靭帯断裂(損傷)の原因

前十字靭帯断裂・損傷の主な原因は「スポーツ・運動中の怪我(外傷)」で、スポーツ外傷の約20%を占めます。

スポーツでの受傷原因は、大きく2つに分けられます。

  • 接触型
    競技相手と接触するスポーツ(コンタクトスポーツ)に多く、膝に直接外力がかかることで、靭帯が損傷します。内・外側側副靭帯との複合損傷となりやすい傾向があります。
    例)ラグビー、柔道、アメリカンフットボール、相撲など
  • 非接触型
    急停止、急な切り返しなど膝を捻る動作(方向転換)、ジャンプなどが多いスポーツで起こりやすくなっています。
    例)バスケットボール・スキー・バレーボール・サッカー・ハンドボール・バドミントンなど
    また、スポーツ・運動時以外に、自転車・歩行中の転倒などで膝を捻ることによって、前十字靭帯が断裂・損傷されるケースもあります。

後十字靭帯断裂(損傷)の症状・原因

後十字靭帯断裂・損傷は、前十字靭帯損傷と比べて1/6~1/7程度の発症頻度で、完全に切れる断裂よりも部分的に損傷することが多いのが特徴です。

また、症状が改善しても、その後の日常生活の中で後十字靭帯に緩みが生じやすい傾向があります。膝の違和感の残存、二次的に半月板や大腿骨軟骨の損傷が起こるケースがあり、変形性膝関節症に繋がる可能性が報告されています。

後十字靭帯断裂(損傷)の症状

  • 膝の痛み・圧痛(押すと痛む)
    受傷直後は激しい痛みが現れますが、時間経過とともに軽減していきます。
    また、膝の裏を押すと痛みがあります。
  • 膝の腫れ
    関節内に出血が起こるため、徐々に膝関節の周りが大きく腫れてきます。
  • 可動域制限
    痛み・腫れにより膝が動かしにくくなります。
  • 同じ姿勢を長時間続けると、膝にうずくような痛みが現れる(ムービーサイン)
    同じ姿勢を続けていると、膝にうずくような痛みが現れる場合があります。
    こうした痛みは、映画館で長時間座っていることに由来して、「ムービーサイン」と呼ばれ、後十字靭帯断裂・損傷を疑う典型的な特徴のひとつとされています。

なお、後十字靭帯損傷では、前十字靭帯断裂・損傷で見られた「膝の不安定感」が少なく、軽症の場合には比較的早期に回復するため、治療に繋がらないケースも少なくありません。

一方で、後十字靭帯損傷時に他の靭帯や半月板を同時に損傷したケースでは、足を踏み出すときに違和感があるような「膝の不安定感」がみられたり、ガクッと膝の力が抜ける「膝崩れ」が起こったりするケースもあります。

後十字靭帯断裂(損傷)の原因

後十字靭帯断裂・損傷の発症原因は、膝前方を強打することであり、次のような要因で起こります。

  • 選手同士の接触が多いスポーツ・運動での怪我(外傷)
    ラグビー、アメリカンフットボール、柔道など
    ※男性に多くみられます
  • 交通事故・転倒
    車での交通事故によりダッシュボードに膝を強打する、転倒の際に膝を打つ、など

前十字(後十字)靭帯断裂(損傷)の検査・診断

問診や触診(徒手検査)、X線検査・超音波検査などの画像検査から、前(後)十字靭帯の断裂・損傷を推測することは可能ですが、靭帯の状態を詳しく確認するためにはMRI検査が必要となります。

問診・触診(徒手検査)

自覚症状・発症時の様子などについて、詳しく伺います。

また、触診では関節内の腫脹(腫れ)や、靭帯の緩みの程度を調べるテスト(ラックマンテストなど)を行います。

X線検査(レントゲン)

X線検査は骨折の有無を調べるために実施しますが、靭帯はX線に写らないため確定診断はできません。

超音波検査(エコー検査)

超音波検査は、レントゲン写真ではうつらない筋肉・腱・靭帯の損傷、内出血、軟骨、軟部腫瘍等の抽出に優れており、組織の炎症や癒着が観察できます。また、MRI検査では評価できない、関節などを動かしながらの検査が可能なので、組織の動的な評価が行えます。

(図)超音波検査機

MRI検査

自覚症状の問診など診察から、「前十字(後十字)靭帯断裂(損傷)」が疑われた場合、通常MRI検査を行います。MRI検査では、前十字・後十字以外の靭帯や、半月板損傷・関節軟骨の状態も詳しく確認できるため、前十字(後十字)靭帯断裂(損傷)の確定診断が可能です(診断率は80%~90%)。

※MRI検査を実施する場合、対応可能な提携施設などにご紹介させていただきます。

前十字(後十字)靭帯断裂(損傷)の治療法

前十字靭帯および後十字靭帯の断裂・損傷では、損傷部位や状態によって、第一選択となる治療法が異なります。手術を選択した場合でも、医師の指示のもと理学療法士と共に行う「リハビリテーション治療」を実施していく必要があります。

前十字(後十字)靭帯断裂(損傷)の応急処置

患部の出血・腫れ・痛みを防ぐことを目的に、応急処置の基本「RICE処置」を行います。

  1. 患部を安静にする(Rest)
  2. 氷で冷却する(Icing)
  3. 弾性包帯やテーピングで圧迫する(Compression)
  4. 患部を挙上*1する(Elevation)

*1挙上:心臓よりも高い位置に上げること

前十字靭帯断裂・損傷の治療法

前十字靭帯は血流が乏しく、自然治癒は困難とされている部位なので、保存的治療(手術以外の治療法)での靭帯の修復は難しいとされています。また、膝の安定性が失われていることが多いため、通常は「外科的手術による靭帯の再建」を第一選択とします。

手術では関節鏡を用いながら、ご自身の腱(自家組織)を使って靭帯を再建します。

現在広く行われている再建手術には、いくつかの術式があるため、患者様の年齢や競技特性などを考慮し、患者様とよく話し合った上で選択します。

※検査・診断の結果、手術が必要と判断された場合には、近隣の対応病院をご紹介させていただきます。

  • BTB再建手術
    骨付きの膝蓋腱(膝の前にある膝蓋骨と脛骨を結ぶ腱)を使用した術式です。
    膝蓋腱と共に上下1cm程度の骨を一緒に採取して固定するため、固定力が強いというメリットがあります。従来から行われていた術式ですが、一方で移植腱採取後に膝前面にうずくような痛みが残るケースがあります。
  • STG再建手術
    太もも裏面にある筋肉(ハムストリングス)の腱である半腱様筋腱(はんけんようきんけん:大腿後面の内側にある筋肉の腱)と薄筋腱(はっきんけん)を使用した術式で、現在の日本では主流となっている術式です。厳密には、一重束再建術と二重束再建術があります。二重束再建術は、解剖学的に正常な前十字靭帯に近いため、安定性に優れています。一方で、骨への固定や移植腱と骨の癒合に関して問題がみられるケースもあります。
  • リハビリテーション
    早期から痛みのない範囲での可動域訓練、筋力低下を最小限に留めるようなストレッチ・トレーニングなどを行います。術後の経過に合わせて、段階的に運動強度を上げていきます。なお、術後半年程度のリハビリが必要です。

※「膝のリハビリページ」にリンクする(要確認)

後十字靭帯断裂・損傷の治療法

後十字靱帯の単独断裂・損傷では、若干膝の緩みが残ることがありますが、日常生活においてはほとんど支障を来さないため、まずは「保存的治療」を試みます。

ただし、膝の不安定さや痛みが残る場合には、前十字靱帯損傷同様に「再建手術」を検討します。

  • 固定
    膝の不安定感が軽度であれば、テーピングや包帯で固定します。
    痛みの緩和・安静を兼ねて、ギプス固定をする場合があります。
  • リハビリテーション
    早期から、痛みのない範囲での可動域訓練、筋力低下を最小限に留めるためのストレッチ・トレーニングなどを実施します。
    また、不安定性が強い場合には、早期から装具療法を併用して、膝の安定感を補助しながら筋力トレーニングをすることもあります。

※「膝のリハビリページ」にリンクする(要確認)

  • 外科的手術
    前十字靭帯断裂・損傷と同じように、自家組織を使って、靭帯の再建手術を行います。

※「前十字靭帯損傷の治療法」の項目にリンクする。(要確認)

よくある質問

1)「前十字靭帯断裂(損傷)」の治療では、必ず手術となりますか?

前十字靭帯損傷であっても、日常生活に支障がなく、競技スポーツに復帰しないような場合には、手術は必須ではありません。

ただし、靭帯が損傷したままで長時間過ごすと、徐々に膝のぐらつきや摩耗などがみられます。膝崩れを繰り返すと膝機能が悪化して、将来的に半月板損傷や変形性膝関節症に進行してしまうことが多いため、競技スポーツをしない方でも、靭帯再建手術で治療した方が結果的に良いと考えられています。

2)前十字(後十字)靭帯断裂(損傷)の治療後のスポーツ復帰時期について教えてください。

手術後、2週間程度で松葉杖なしで歩けるようになるケースが多いですが、その後はリハビリテーションによって可動域の改善や筋力の回復などに努める必要があります。

患者様の年齢や競技スポーツの内容、断裂状況などによって個人差がありますが、ジョギング程度の軽い運動なら術後4か月頃から可能です。その後、競技特性に合わせたリハビリを続け、平均して術後約6か月~9か月を目安にスポーツ復帰を目指します。

3)前十字(後十字)靭帯断裂(損傷)の予防法を教えてください。

突発的に起こる交通事故の回避は難しく、スポーツ中の怪我も完全に予防することはできません。

しかし、日頃から膝関節の安定化を意識して、ストレッチなどで「太ももの筋力強化」に努めると、膝の靭帯損傷リスクの低下に繋がります。また、スポーツでは膝周りの筋肉だけでなく、体幹も膝の靭帯損傷の発症に大きな影響を与えているため、「全身の柔軟性の改善・向上」を図ることが大切です。

プール内歩行は、膝への負担を抑えながら、効率よく全身の筋力が鍛えられるので、おすすめです。

※前十字(後十字)靭帯の損傷がある場合、ストレッチや運動は、医師・理学療法士の指導のもと行いましょう。

まとめ

前十字靭帯および後十字靭帯の損傷の多くは、スポーツ中に発生します。

膝の靭帯は膝関節を支える働きをしているため、損傷を受けると、膝の不安定性や膝崩れが生じて、日常生活・スポーツ活動に支障を来します。

また、長期間損傷したままで過ごすと、他の靭帯や半月板・関節軟骨など二次的損傷を生み、歩行困難・寝たきりの要因となる「変形性膝関節症」に移行する可能性が報告されていますので、きちんと治療することが望まれます。

当院では、医師と理学療法士が連携しながら、リハビリテーション治療によって再発や新たな部位の痛みの発生を予防する「積極的保存療法」に力を入れています。

「膝を強打した」「膝関節に強い痛みや腫れがある」という場合は、一度当院までご相談ください。