disease
疾患

一般整形外科頸椎(くび)

頚椎症性脊髄症・頚椎症性神経根症

首の骨(頚椎:けいつい)の加齢変化(変性)が原因となり、脊髄や神経根といった神経が圧迫することによって引き起こされる病気です。脊髄が圧迫されると、手足の感覚が悪くなる、足がもつれる、といった症状が現れます。また、神経根が圧迫されると、首や肩~手の痛み・しびれが現れます。発症のきっかけには「加齢変化」があるため、誰にでも起こり得る病気で、中高年の発症が多くなっています。日常生活に支障を来す症状や歩行障害・排尿障害がある場合には、外科的治療の検討が必要となります。

首~肩・手の痛み・しびれがある、足がもつれることがある、という方は、お気軽に当院までご相談ください。

頚椎の構造

首の骨「頚椎」は、7つの骨(椎骨:ついこつ)から成り立ち、椎骨の後ろには脳から繋がる大事な神経「脊髄(せきずい)」が通る「脊柱管」が存在します。さらに、椎骨と椎骨の間にはクッションのような「椎間板(ついかんばん)」があり、中心部はゲル状の「髄核(ずいかく)」、その外周に強固な軟骨「線維輪(せんいりん)」で構成されます。

また、頚椎はボウリング球程度の重さ(約5kg)の「頭」を支える役割を持つことから、負荷分散のために通常やや前方に緩やかなカーブの形状をしています。

(図)頚椎の構成

頚椎症とは?

「頚椎症」とは、頚椎に骨棘(こっきょく:骨のとげ)や椎間板の隆起、靭帯の石灰化・骨化などの加齢変化が起こり、神経を圧迫することで引き起こされる病気です。

なお、頚椎の老化は20歳過ぎから少しずつ老化(変性)が始まるとされています。

頚椎にある神経には、脊柱管の中を通る「脊髄」と、脊髄から左右に分岐している「神経根」があります。圧迫される神経によって「脊髄症」「神経根症」に分類され、症状が出現する範囲が異なります。

頚椎症性脊髄症の症状

頚椎によって脊柱管の中の「脊髄」が圧迫されることで、次のような症状が現れます。

なお、症状の多くは、左右両側に現れます。

  • 手先を使う細かい動作が難しくなる(巧緻運動障害:こうちうんどうしょうがい)
    例)ボタンのかけ外し、お箸の使用、字を書く、本のページをめくるなど
  • 足がもつれる・階段の上り下りに手すりが必要となる
    若い方では「かけ足」「ケンケンをしにくくなる」など、軽度の足の不自由さを自覚できることがありますが、高齢者では気づくのが遅れやすいので要注意です。
  • 手足がしびれる
  • 歩行障害・排尿障害がある

重症化すると、下半身にまで影響が及び、トイレが近くなる・尿意を我慢できなくなるなどの排尿障害も認められます。

頚椎の脊髄への圧迫がみられる場合、軽い外傷によって脊髄が損傷することで「四肢麻痺(左右の手足全てが動かない状態)」となる可能性があるので、転倒などに注意が必要です。

頚椎症性神経根症の症状

頚椎による神経根への圧迫が起こると、次のような症状が現れます。

なお、神経根は脊髄の左右にあるため、症状の多くは「片側のみ」にみられます。

  • 首・肩・腕・手に痛みがある
    痛みの程度は軽いものから耐え難いものまで、個人差があります。
    普通に腕を下げると痛むので、痛む側の腕を上に挙げたままにする姿勢を取りがちです。
  • 腕~手にしびれがある
  • 首を斜め後ろに傾ける、顔を上に向ける動作で痛みやしびれが強くなる
  • 肩や腕の筋力の低下・感覚の麻痺がある
(画像引用)頚椎症性神経根症|日本整形外科学会https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/cervical_radiculopathy.html

頚椎症性脊髄症・頚椎症性神経根症の原因

頚椎症性脊髄症・頚椎症性神経根症の原因は、頚椎症による神経(脊髄/神経根)の圧迫です。

頚椎症の原因は主に加齢ですが、下向きでの作業・首を反らす姿勢など首へ繰り返し負担をかけることも、頚椎の変性に影響を与えていると考えられています。

また、欧米人と比べて、日本人は脊柱管の大きさが小さいため、「脊髄症」を起こしやすい傾向があります。

頚椎症性脊髄症・頚椎症性神経根症の検査・診断

中年以降であれば、X線検査での頚椎症性変化はほとんどの方に認められます。また、MRI検査で脊髄圧迫の所見があっても症状には現れていないケースがあるため、画像検査だけで診断することはできません。

そのため、特徴的症状やX線検査・MRI検査などの検査から総合的に診断します。

問診・触診

自覚症状や、首に負荷をかけるような環境の有無、病歴など詳しくお伺いします。

また、触診では「首を斜め後ろに傾けると、肩・腕のしびれが出る・強くなるか」「手足の腱反射の異常があるか」などを確認します。

X線検査(レントゲン)・MRI検査

X線検査で「頚椎の変形」を調べます。

神経症状が著しい場合は、MRI検査で脊髄や神経根の圧迫を確認します。

なお、MRI検査で神経根の圧迫を確認しにくいケースもありますが、骨棘による椎間孔(神経根が出ていく孔)の狭窄を確認できる場合があります。

※MRI検査の実施が必要と判断される場合、対応可能な提携施設などにご紹介させていただきます。

頚椎症性脊髄症・頚椎症性神経根症の治療法

当院では症状の改善だけでなく、症状悪化・再発防止を見据えて、医師と理学療法士*1が連携しながら、患者様一人一人に合わせたオーダーメイドの治療を行っております。

*1 理学療法士:国家資格であり、動作のエキスパート。医学的リハビリテーションの専門職。

保存的治療

急性期(発症から14日以内)の治療として、まずは手術をしないで行う治療法「保存的治療」が第一選択となります。

  • 安静・生活指導
    首の安静が図れるよう、頚椎に負担をかけない姿勢や動き方について、指導させていただきます。痛みが強いときは、首の安静保持のため、頚椎カラー(ネックカラー)による装具を用いることがあります。
  • 薬物療法
    強い症状があるときには、消炎鎮痛効果のある内服薬・湿布や神経の内服薬、痛みに効果的な抗うつ薬などを併用します。しびれ・巧緻運動障害が主な場合には、ビタミンB剤を処方します。
  • 神経ブロック注射
    神経根症で薬物療法だけでは症状の緩和が不十分の場合には、神経ブロック注射を実施することがあります。
  • リハビリテーション

医師の指示のもと、理学療法士と共に行う治療「リハビリテーション(リハビリ)」で痛み・しびれの改善に努めます。通常、痛みが落ち着いて来てからリハビリを実施します。

リハビリでは、患者様の一人一人の状態に合わせ、運動療法・徒手療法・牽引療法・ストレッチ・温熱療法・物理療法*2・装具療法を組み合わせて行います。

 *2物理療法:電気・光線・超音波・熱などの物理エネルギーを利用して、炎症や症状の改善、回復を促進する治療法。

  

外科的手術

保存的治療を行っても痛み・しびれなどの症状が強い、リハビリテーションで改善しない、歩行障害・排尿障害が現れるなど、日常生活に支障を来す場合には「外科的手術」を検討します。

首の後ろ側から切開して神経の通り道を広げる「椎弓形成術」や、前方から切開して神経根の圧迫を取り除いて固定する「前方除圧固定術」などがあります。近年は、内視鏡を利用した身体への負担が少ない手術法も行われています。

※手術が必要と診断された場合、対応可能な基幹病院にご紹介させていただきます。

よくある質問

1)「頚椎症性神経根症/頚椎症性脊髄症」と「頚椎椎間板ヘルニア」の違いは何ですか?

「頚椎症性神経根症/頚椎症性脊髄症」「頚椎椎間板ヘルニア」は、いずれも神経の圧迫によって、首から手に痛み・しびれが現れたり、歩行障害・排尿障害を引き起こしたりする病気です。神経を圧迫している「もの」に違いがあります。

  • 頚椎症性神経根症/頚椎症性脊髄症
    椎骨に出来た骨棘(骨のとげ)や椎間板の隆起が、神経を圧迫している場合に起こります。また、神経根を圧迫すると「頚椎症性神経根症」、脊髄を圧迫すると「頚椎症性脊髄症」に分類されます。
  • 頚椎椎間板ヘルニア
    「椎間板の中の髄核」が神経(脊髄・神経根)を圧迫した場合に起こります。

2)「頚椎症性脊髄症/頚椎症性神経根症」の予防法を教えてください。

発症および症状悪化を防ぐためには、首に負担をかけないよう日常生活の中で注意することが大切です。

  • 正しい姿勢をする
    次の部位が、縦に一直線となる姿勢が理想的とされます。
    【立ち姿勢】耳たぶ-肩-足の付け根-膝のお皿-外くるぶし
    【座った姿勢】耳たぶ-肩-足の付け根
(画像)正しい姿勢のイメージ
  • 首を大きく反らす動作を避ける
    うがい、洗濯物を干すなどの動作や、低い枕の使用には注意が必要です。
  • 首に外力・衝撃・がかからないように注意する
    転倒などによる顔面・頭部への打撲、動作、ラグビー・アメフト・柔道、スキー・スノーボードなどによる首への衝撃が加わった場合、神経症状が起こりやすい傾向があるので、要注意です。

まとめ

「頚椎症性脊髄症/頚椎症性神経根症」は、特に急激な年齢的変化が起こる50歳以降の方なら、どなたにでも発症する可能性があります。患者様の多くは男性で、女性と比べて約2倍となっています。

また、頚椎症性脊髄症・頚椎症性神経根症を含む、頚椎に痛み・しびれが現れる疾患では、加齢による頚椎の変性以外にも、首に負担のかかる「姿勢・動作」や、不良姿勢・動作から生じる「身体の歪み」が発症要因として深く関わっています。日頃から「正しい姿勢」を意識しましょう。

当院では単なる症状の改善だけでなく、医師と理学療法士が連携して再発防止に向けたリハビリテーション治療に取り組んでおります。一度お気軽に当院までご相談ください。