disease
疾患

一般整形外科肩関節周囲

肩関節周囲炎(40、50肩)

肩関節周囲炎とは、主に加齢によって肩関節に「痛み」や「動かしにくさ」が生じる症状の総称です。この病気は、40代で発症すれば「四十肩(しじゅうかた)」、50代で発症すれば「五十肩(ごじゅうかた)」という俗称で呼ばれる通り、40代50代の方に多くみられます。

肩関節周囲炎は、悪化すると着替えや洗顔といった「肩を上げる日常動作」が難しくなり、QOL(生活の質)が低下していきます。これを放置すると肩関節の可動域の制限に繋がり、治療に長い時間が必要となってしまうため、症状が軽いうちに適切な治療を開始しましょう。

肩関節とは?

肩関節は、上腕側の骨頭(球状の骨)と肩甲骨の関節窩(かんせつか=骨頭の受け皿となる骨)から構成されています。イメージとしては、浅いお皿に大きなボールが乗っているような不安定な形となりますが、肩関節周りの筋肉や靭帯(じんたい)、関節唇(かんせつしん:軟骨)、関節包(動きを滑らかにする袋)などが支えることによって、幅広く可動できると同時に安定性が保たれています。こうした形状から肩関節は「球関節」とも呼ばれます。

(図)肩関節の構成
(図)肩関節のイメージ

肩関節周囲炎の症状

肩関節周囲炎の症状の特徴には「痛み」「関節の動きが悪くなる(運動制限)」「夜間痛」の3つがあります。

初期症状として、肩の奥の方が重く感じるなどの「肩関節の違和感」から始まり、次第に肩(腕)が上がりにくくなり、「顔に手が届かない」「洗濯物が干しにくい」など日常動作に不自由が生じてきます。

肩関節周囲炎は、大きく3つの病期に分かれており、病期によって現れる症状が異なります。

  1. 炎症期の症状
    痛みが強い時期です。発症のきっかけはなく、急に強い痛みが生じます。
    炎症が悪化しないよう、安静にすることが大切です。
    • 何もしていなくても、ズキズキ痛む(安静時痛)
    • 夜に肩が痛くなる、寝ていても目が覚めてしまうことがある(夜間痛)
    • 一度、痛みが現れると、しばらくジンジンとした痛みが残る
  2. 拘縮期(こうしゅくき)の症状
    炎症期のような強い痛みは落ち着いてきますが、一方で肩の動きが悪くなっていきます(=拘縮)。
    肩を動かしたときに痛みを感じたり、肩の動かしにくさを強く感じたりするなど、日常生活動作で不自由を感じる場面が多くなります。
    • 痛みは落ち着いているが、腕が動かしにくい
    • 肩を動かし切ったところ(最終可動域)で痛みが現れる
    • 痛みがある肩側を下にして寝ると痛む
  3. 回復期の症状
    動かしたときの痛みや動かしにくさが、徐々に改善してくる時期です。
    ある程度の範囲であれば、痛みを感じにくくなってきていますが、限界の角度を超えると、まだまだ痛みが出現します。
    この時期に積極的なリハビリテーション治療を行うことで、肩の動きを早期に改善することが期待できます。
    • ほとんど痛みは現れなくなったが、相変わらず腕が思うように上がらない・回せない
    • 安静にしていれば痛みは現れない
    • 肩の筋肉が突っ張るような感じがする

肩関節周囲炎の原因

肩関節周囲炎は、名前の通り、肩関節の周囲に炎症が起こることで発症します。肩関節を構成する骨や筋肉・軟骨・靭帯・腱といった周囲組織が炎症を起こす原因について、詳細は今のところ明らかになっていませんが、主な要因には「加齢(老化)」があると考えられています。さらに、肩関節の動きをよくする袋(肩峰下滑液包)や、関節を包む袋(関節包)が癒着すると、強い可動域制限が生じたり(拘縮・凍結肩)、炎症によって筋肉の付着部に石灰が沈着したりすることもあります。

肩関節周囲炎の検査・診断

肩関節周囲炎の診断では、同じように肩関節の痛みや可動域制限を認める他の疾患を除外することが大事です。

問診・視診・触診

自覚症状や「いつから痛むのか」など、詳しくお伺いします。

また、圧痛(あっつう:強く押すと痛む)のある部位や、肩関節の動きの状態を確認します。

画像検査(X線検査・関節造影検査・MRI検査など)

肩関節に痛みが生じる疾患は、肩関節周囲炎の原因である肩関節の関節包や滑液包(肩峰下滑液包)の炎症以外にも、上腕二頭筋長頭腱炎、切開沈着性腱板炎、肩腱板断裂など複数存在します。そうした疾患との鑑別のために、画像検査で骨や軟部組織の状態を調べます。

  • X線検査(レントゲン)
    骨の状態を確認します。肩関節周囲炎では異常がみられません。
  • 関節造影検査
    レントゲン透視下で肩関節に局所麻酔約薬および造影剤を注入して、関節内の病変を調べます。また、検査を行うことで関節内圧を下げる治療的側面もあります(関節内圧減圧法)。
  • MRI検査
    筋肉や靭帯など軟部組織に損傷がないかを確認します。
    ※MRI検査が必要と判断される場合、対応可能な提携施設をご紹介させていただきます。
  • 超音波検査
    軟部組織(筋肉、腱、靭帯など)の抽出に優れています。

肩関節周囲炎の治療法

肩関節周囲炎は自然治癒するケースもありますが、発症者の約40%は症状が3年以上残るという調査結果もあるため、積極的に治療したい疾患です。

また、放置すると次第に日常生活動作が不自由になるだけでなく、関節内の組織の癒着によって肩関節が動かなくなることもあります。

当院では症状の改善だけでなく、症状悪化・再発防止を見据えて、医師と理学療法士*1が連携しながら、患者様一人一人に合わせたオーダーメイドの治療を行っております。

*1 理学療法士:国家資格であり、動作のエキスパート。医学的リハビリテーションの専門職。

保存的治療

肩関節周囲炎を含む肩関節疾患では、手術をしない治療法「保存的治療」が第一選択となります。肩関節周囲炎では、病期や症状に合わせて治療法を選択します。

炎症期の治療

肩関節周囲炎を発症したことで、肩関節や腕の動かしにくさを感じるようになり、「このままでは、もっと動かなくなるかもしれない」という気持ちから、焦って無理に動かそうとする方がいらっしゃいます。しかし、痛みが強い「炎症期」に無理やり動かすと、かえって炎症・痛みが長引かくこともあるので、まずは安静を心がけましょう。

  • 安静
    痛みが強い急性期は、三角巾・アームスリングで腕を固定すると、安静を保つことに加えて、症状悪化予防にも効果的です。
  • 薬物療法
    肩関節の安静と共に、消炎鎮痛効果のある内服薬・湿布などを併用します。
  • 関節内注射
    薬物療法では痛みの緩和が不十分、または痛みが強い場合には、抗炎症作用のあるステロイド剤や局所麻酔薬、ヒアルロン酸などの薬剤を肩関節内に注射します。
    ※ステロイド注射の副作用としては胃痛や吐き気があります。さらに長期使用では肝臓・腎臓への障害も現れる場合があります。
  • アイシング(患部を冷やす)
    患部が熱を持っている場合は、冷やすことが効果的です。
拘縮期

炎症期に行った治療により、安静時の強い痛みや炎症が落ち着き、癒着が改善してきたら、リハビリテーション治療を行います。痛みが出ない程度の運動療法で肩関節の可動域の維持・拡大を目指し、症状の悪化予防を目指します。また、肩甲骨の動く範囲が広がると、肩への負担が軽くなるだけでなく、痛みの誘発が減少するので肩周囲の血液循環量も改善します。

  • リハビリテーション
    リハビリテーション(リハビリ)とは、医師の指示のもと、国家資格である「理学療法士」と共に行う治療です。運動療法・徒手療法・温熱療法・物理療法*2・ストレッチ・生活指導などを組み合わせて実施することで、痛みの改善、関節可動域の維持・拡大、筋力強化、運動機能の回復・維持、動作練習など能力向上に努めます。

 *2物理療法:電気・光線・超音波・熱などの物理エネルギーを利用して、炎症や症状の改善、回復を促進する治療法。

コッドマン体操

「コッドマン体操」は有名なストレッチ体操の一つです。腕を振り子のようにブラブラと動かすことで、肩関節周囲の筋肉の弛緩を図ります。肩関節の隙間が開くことで、軟骨・靭帯の圧力が減り、動かしたときの痛みや可動域の改善が期待できます。

  1. 立っている状態から、片手で椅子や机などに手をついて、身体を前に倒す。
    患部の方の腕は下にダランと垂らす。
  2. 垂らしている患部側の腕は、重力を利用するようにして振り子のように前後左右に揺らす。(無理のない範囲で行ってください)

※症状によっては、揺らす方の手に重い物(少し重量のあるダンベル~アイロン、取っ手が付いている500ml程度の洗剤など)を持って行うこともあります。
※重い物を持って行うかどうかは、医師・理学療法士の指示に従ってください。

回復期

炎症が落ち着いた回復期では、狭くなった肩関節の可動域を広げることを目的としたストレッチや筋力訓練など、拘縮期よりも積極的に運動していきます。

実はこの回復期こそ、肩関節周囲炎の回復を左右する重要な時期となります。

運動療法(リハビリテーション)は、自己判断で行って良いものではありません。過剰な負荷や無理な動きは、痛み・炎症の再発原因となるため、必ず医師や理学療法士の指導のもと、正しいフォーム・手順で行うことが大切です。

外科的手術

保存的治療を行っても症状が改善せず、日常生活に著しい支障を来している場合には、外科的手術を検討します。硬くなった関節包を剥がして切離することで、肩関節の動きの改善を図ります。

一般的には、麻酔で眠った後に、医師が肩関節に力を加えて動かす「麻酔下徒手的受動術(サイレントマニュピュレーション)」と、関節鏡を用いて4ミリ程度の小さい皮膚切開で関節包を切離する「関節鏡下手術」を併用します。

よくある質問

1)「肩関節周囲炎」はどのくらいで治りますか?

患者様の状態には個人差がありますが、目安は「約半年~1年」です。

症状を長引かせないためには、症状が軽い段階から患者様お一人お一人に合わせた適切な治療やリハビリテーションを行うことが大切です。

2)「肩関節周囲炎」のときに、注意したいことはありますか?

次のような点に注意しましょう。

  • 強い痛みがあるときには、無理に動かさない
    強い痛みのある炎症期は、無理せず安静にしましょう。痛みが落ち着いてきた拘縮期・回復期からは、運動療法などにより動かしていきます。
  • 痛みのある片側を下にして寝ない
    肩関節周囲炎では「夜間痛」が現れることも少なくありません。
    患部を下にして寝ると、肩に負担がかり症状が悪化するケースがあります。
    痛みがあるときは、痛みのない方を下にして寝ると良いでしょう。
  • 自己判断でマッサージを受けない
    肩関節周囲炎の痛みを「肩こり」と感じて、自己判断でマッサージを受けてしまうと、余計に症状が悪化するケースがあります。肩関節周囲炎では、痛みに加えて「可動域制限」を伴います。これらの特徴がみられる場合には、マッサージを受ける前に医療機関を受診することをおすすめします。

3)肩関節周囲炎の予防法を教えてください。

肩関節の可動域は大きく、さらに肩関節周りには筋肉や筋肉へ栄養補給を行う血管が豊富に存在しています。そのため、肩の血液循環が悪くなると、肩関節に炎症が起こりやすくなると考えられています。

以下のようなポイントを意識して、血流を増やして、肩の局所体温を上げるようにしましょう。

  • 正しい診断を受ける
    いわゆる四十肩・五十肩は、特別な原因があって発症するものではないため、完全に発症を予防することは難しいですが、症状の悪化予防は可能です。
    まずは「この痛みは、四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)である」と、きちんと医療機関で診断してもらうことが大切です。正しい診断を受ければ、病期に合わせた適切な対応を取ることができますが、自己判断で誤った対応をすると、逆に症状が悪化して、痛みが増してしまう可能性があります。
  • 上半身の筋肉を使った運動をする
    肩甲骨を含め、首から肩にかけた肩関節周囲筋群の運動を日頃から取り入れるようにしましょう。例えば、ウォーキングでは腕を振り子のように振りながら歩く、上半身のストレッチ、ラジオ体操、テニス、スイミング、鉄棒のぶら下がりなどがおすすめです。ただし、既に肩関節に痛みがあるときには、動かすことでかえって症状や炎症が悪化するケースもあるので、すみやかに医療機関を受診してください。
  • 湯船に肩まで浸かる
    肩まで浸かってゆっくり入浴すると、肩関節の血の巡りが良くなります。シャワーのお湯や手桶でお湯を肩にかけてもOKです。
  • 肩を冷やさないようにする
    寝るときには、肩掛けをするなど、日常的に肩を冷やさない工夫も効果的です。

まとめ

肩関節周囲炎は「四十肩・五十肩」とも呼ばれますが、「痛みや動かしにくさは年齢的なもので、放っておけばそのうち治る」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。

確かに痛みの強い急性期は「安静」が大事ですが、痛みや炎症が落ち着いてきたら積極的に肩関節を動かして、可動域を回復させる必要があります。ただし、無理に動かすと症状悪化や治療期間の長期化に繋がる可能性もあるため、診断のもとに「適切な治療をする」「適切なタイミングで正しい運動をする」ことが重要です。

当院では医師と理学療法士が連携して、再発防止に向け、患者様に合わせたオーダーメイドの治療に取り組んでおります。「腕周りや肩関節がおかしい」と感じたら、一度お気軽に当院までご相談ください。