disease
疾患

一般整形外科腰椎(こし)

腰部脊柱管狭窄症

「腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)」は、神経が通るトンネル「脊柱管」が腰の部分で狭くなる病気で、歩行時に腰からお尻・足にかけて痛みやしびれが現れます。主に加齢が発症要因となっているため、60代70代の高齢の方に多くみられます。発症すると、長い距離を続けて歩けず、歩行と休憩を繰り返す「間欠跛行(かんけつはこう)」の症状や、「前かがみの姿勢では症状が楽になる」といった特徴がみられます。

腰部脊柱管狭窄症では、できるだけ症状の軽いときから、適切な治療・リハビリテーションを開始することが大切となります。お早めに当院までご相談ください。

腰部脊柱管とは?

私たちの背骨(=脊柱:せきちゅう、脊椎:せきつい)は、首から腰まで24個の骨(椎骨:ついこつ)で連結され、身体を支えています。その中で腰部分を「腰椎」と呼び、これは5つの椎骨と、骨の間のクッション的役割を果たす「椎間板(ついかんばん)」から構成されます。椎骨は、前方に支柱となる「椎体(ついたい)」、後方の「椎弓(ついきゅう)」に分かれており、椎体と椎弓の間にはトンネル状の空間「脊柱管」が存在しています。

腰部分の脊柱管を「腰部脊柱管」と呼び、中には脳から伸びる大事な神経「脊髄/馬尾神経(ばびしんけい)*1」と椎体の間から枝のように左右に伸びる「神経根」が通っています。

*1脊髄/馬尾神経:脊髄は腰椎の上から1番目(第一腰椎)・2番目(第二腰椎)あたりまでで、その下方は馬のしっぽのような神経の束「馬尾神経」となる。

(図)腰部脊柱管の構成

腰部脊柱管狭窄症の症状

腰部脊柱管狭窄症では、腰から下の神経に関連する症状が現れます。

主な症状は、次の通りです。

  • 下肢(かし=脚)の痛み・しびれ
    腰の痛み、お尻~脚にかけて痛み・しびれがみられます。
    これらの痛み・しびれは、安静にしているときにはほとんど現れず、背筋を伸ばして、立ったり歩いたりするときに現れます。
  • 長距離を続けて歩けない(間欠跛行)
    痛み・しびれから、長距離を続けて歩くことが難しくなります。
    ただし、歩いているときに症状が現れても、「前かがみになる」「腰掛ける」など少し休息を取れば、また歩けるようになります(=間欠跛行)。
    間欠跛行は、腰部脊柱管狭窄症の特徴的な症状です。
  • 思うように足が動かせない(足の筋力低下)
    神経麻痺による筋力低下が起こると、歩行障害が現れます。
  • 排尿障害
    神経圧迫が進行すると、肛門周囲のほてり、頻尿、尿の出が悪くなる、尿が漏れるなどの排尿障害が現れることがあります。

腰部脊柱管狭窄症の原因

腰部脊柱管狭窄症の原因は、腰部の脊柱管が狭くなって(脊柱管狭窄)、後方の神経(脊髄・神経根)を圧迫することです。

神経圧迫によって、血流低下が起こり、脊柱管狭窄症を発症します。

(図)腰部脊柱管狭窄症の病態

腰部脊柱管狭窄症を引き起こす要因

脊柱管狭窄の最大の要因は、「加齢」です。

加齢に伴い、椎間板の突出や背骨の変形、黄色靭帯の肥厚(厚くなること)により、脊柱管が狭くなります。

ほかに、椎間板ヘルニア・すべり症など腰椎の病気に続いて発症することや、仕事などによる慢性的な腰への負担、交通事故が要因となって発症するケースがあります。また、稀ですが、先天的に脊柱管が狭い場合もあります。

腰部脊柱管狭窄症の分類

腰部脊柱管狭窄症は、圧迫される神経の部位によって、次の3つに分類されます。

  1. 馬尾型
    脊柱管の中心部分(脊髄・馬尾神経)が圧迫されるタイプ。
    【主な症状】両側の下肢の痛み・しびれ、だるさ、感覚異常、悪化すると排尿・排便障害
(図)馬尾型
  1. 神経根型
    馬尾神経から枝分かれした神経根が圧迫されるタイプ。
    【主な症状】片側のお尻や下肢に痛み・しびれ
(図)神経根型
  1. 混合型
    馬尾神経と神経根の両方が圧迫されるタイプ。
    【主な症状】馬尾型・神経根型の両方の症状
(図)混合型

腰部脊柱管狭窄症の検査・診断

問診や触診、X線検査・MRI検査などの画像検査から総合的に診断しますが、より詳しく診断するためには、MRI検査が必要となります。

ただし、画像検査の画像と症状が一致しないケースも多々あります。

問診・触診

自覚症状(症状の出る部位・痛むタイミングなど)・腰に負担を掛けるような環境の有無・病歴などについて、詳しく伺います。

また、触診では「腰を反らすと症状が悪化し、前かがみの姿勢では楽になるか」「筋力低下の有無」「知覚障害の有無」などを確認します。

X線検査(レントゲン)

X線検査では腰部脊柱管狭窄症の確定診断はできませんが、骨の状態からある程度、椎間板の状態を推測することは可能です。また、似たような症状を起こす別疾患(腫瘍や脊柱変形など)との鑑別を行います。

MRI検査

MRI検査は、椎間板の神経圧迫の程度や状態を詳しく確認できるため、腰部脊柱管狭窄症の確定診断が可能です。また、診療ガイドラインにおいて、腰部脊柱管狭窄症の診断に最適の画像検査とされています。

※MRI検査を実施する場合、対応可能な提携施設などにご紹介させていただきます。

ほかにも、必要に応じて、CT検査や脊髄造影検査などを行う場合があります。

腰部脊柱管狭窄症の治療法

腰部脊柱管狭窄症では、時間経過と共に狭窄が自然治癒することはありません。むしろ時間が経つにつれて、筋力低下・高齢などにより狭窄が強くなる傾向があります。

まずは手術をせずに行う治療「保存的治療」から始め、それでも症状が改善されないときや歩行障害の進行、排尿・排便障害がみられた場合には「外科的手術」を検討することになります。

当院では、従来の保存的治療による痛みの改善に加え、再発や新たな部位の痛みの発生を予測して予防する治療「積極的保存治療」を実施しています。

医師と理学療法士*2が連携しながら、患者様一人一人に合わせたオーダーメイドの治療を行っております。

*2 理学療法士:国家資格であり、動作のエキスパート。医学的リハビリテーションの専門職。

保存的治療

腰部脊柱管狭窄症は、症状があっても、すぐに治療しなければならないということはありません。しかし、歩行障害など日常生活の動作に支障がある場合は、薬物療法やリハビリテーションなどの保存的治療を開始することをおすすめします。

  • 薬物療法
    消炎鎮痛効果のある内服薬・湿布(外用薬)、神経の血流改善のための内服薬、筋肉の緊張を取ることで痛みの緩和に繋がる筋弛緩剤、末梢神経のしびれを改善するビタミンB剤などを使用します。
  • 神経ブロック注射
    薬物療法だけでは症状の緩和が不十分の場合には、痛みの悪循環を断ち切るために「神経ブロック注射」を実施するケースがあります。神経ブロック注射は、痛む部位の神経付近に麻酔薬を注射することで痛みを抑えます。
    当院では、即効性が期待できる「腰部硬膜外ブロック」、筋膜と周辺組織の癒着も改善する「ハイドロリリース・筋膜リリース注射」が腰部脊柱管狭窄症に対応しており、患者様の症状などに合わせて選択します。

※ブロック注射ページにリンクする(要確認)

  • リハビリテーション
    リハビリテーション(リハビリ)とは、医師の指示のもと理学療法士と共に行う治療です。患者様の症状などに合わせて、運動療法・徒手療法・マッサージ・牽引療法・温熱療法・物理療法*3・装具療法を組み合わせて実施することで、痛みなどの症状緩和、血流改善・関節可動域の拡大、筋力強化、運動機能の回復・維持、動作練習・歩行訓練など能力向上に努めます。
    なお、運動療法は通常、強い痛みが落ち着いてから開始します。下半身を中心とした姿勢や動作の改善、腹筋・背筋などの筋肉を鍛えることで腰への負担を軽減させます。

 *3物理療法:電気・光線・超音波・熱などの物理エネルギーを利用して、炎症や症状の改善、回復を促進する治療法。

  • 日常生活の見直し
    腰部脊柱管狭窄症では「前かがみ姿勢」になると、症状が和らぎます。
    そのため、「歩くときには杖をつく」「シルバーカーを押して、少し腰をかがめた姿勢で歩く」と歩きやすいでしょう。また、比較的症状が現れにくい「自転車での移動」や「水中ウォーキング」による運動もおすすめです。

外科的手術

保存的治療を行っても症状が改善しない、両足に症状が出ている場合には、外科的手術を検討します。特に排尿・排便障害がみられるケースには、できるだけ早めの手術が望ましいとされています。

手術には、「脊柱管狭窄の原因となっている部分を切除(除圧)する方法」と、「除圧して背骨のぐらつきを止める方法」の2種類があり、近年は内視鏡を使った低侵襲な手術も広く行われています。一般的に1~2週間程度の入院が必要ですが、内視鏡を用いた手術では1~2泊の入院で手術可能なケースがあります。

当院では、患者様の年齢や体力・どこまでの回復を希望するかなどを伺い、よくご相談させていただいた上で選択しています。また、退院後も継続して、リハビリテーションを実施していく必要があります。

※検査の結果、手術の必要があると判断された場合には、適宜近隣の対応病院をご紹介させていただきます。

  • 除圧術(腰椎椎弓切除術)
    脊柱管狭窄の原因となっている骨や靭帯・椎間板を削って、狭くなった脊柱管を拡大する方法です。
  • 広範囲椎弓切除術
    4cm程度の皮膚切開を行って、広範囲に椎弓・黄色靭帯などを切除(除圧)します。感染症・合併リスクや、切除範囲が広いときには再手術が難しいケースもあります。
  • 部分椎弓切除術
    1~2cm程度の切開部分から内視鏡カメラを入れて、モニターを見ながら、必要な部分だけを切除(除圧)します。ただし、複数か所の狭窄や椎骨の不安定感がある場合には、適応とならないことがあります。
  • 脊椎固定術
    主に背骨にぐらつきがある、背骨に大きなズレがある場合には、固定術を行います。
    骨を削って、神経の周りを広げ、医療用金具(プレート、スクリュー、ロッドなど)で脊椎を固定します。

よくある質問

1)「腰部脊柱管狭窄症」でやってはいけないことはありますか?

腰部脊柱管狭窄症では、できるだけ腰を反らせる行為を避けましょう。

一般的に、身体に良いとされている動作・行為でも、腰部脊柱管狭窄症の場合には、あまりおすすめできないケースが、いくつかあります。

例)「良い姿勢を意識して、無理やり背筋を伸ばす」、「腰を反らす運動、腰を捻る動作の反復」「筋力低下予防に、症状を我慢しての無理なウォーキング」など

腰への負担軽減はもちろんですが、症状がある場合には「症状が悪化しない範囲で行うこと」が大切です。

2)腰部脊柱管狭窄症と腰椎椎間板ヘルニアの違いは何ですか?

腰部脊柱管狭窄症と同じように腰の痛み・しびれがみられる疾患に「腰椎椎間板ヘルニア」があります。主に「神経圧迫の原因」「症状が悪化する体勢・楽になる体勢」「好発年齢」に違いがみられます。

  • 腰部脊柱管狭窄症
    【原因】腰部の脊柱管が狭くなること
    【症状が出る(悪化する)とき】腰を後ろに反らしたとき、立っているとき、歩いているとき
    【楽になる姿勢】前かがみの姿勢
    【好発年齢層】50代以降
  • 腰椎椎間板ヘルニア
    【原因】椎間板の中心部にあるゼリー状の「髄核(ずいかく)」が突出すること    ※ヘルニアが進行して、脊柱管が狭くなると「腰部脊柱管狭窄症」となります。
    【症状が出る(悪化する)とき】前かがみの姿勢
    【楽になる姿勢】腰を後ろに反らしたとき
    【好発年齢層】20代~40代

上記の疾患以外に、下肢の動脈が詰まって血行障害が生じた場合も似たような症状が現れるため、症状を引き起こしている原因を正確に調べることが大切です。一度ご来院ください。

3)腰部脊柱管狭窄症の予防法を教えてください。

腰部脊柱管狭窄症では「生活習慣の見直し」によって、ある程度の発症予防・進行防止は可能と考えられています。

  • 適度な運動
    安静の長期化は足の筋力や柔軟性・体力などの低下が起こるので、痛み・しびれがある程度落ち着いてきたら、適度に運動しましょう。
    症状が悪化しない範囲でのウォーキングといった有酸素運動や、エアロバイク・自転車など症状が出にくい運動がおすすめです。
    また、腰を反らさない方が良いとはいえ、全く行わないのも筋肉が硬くなってしまう原因となるため、うつぶせ寝で2~3分寝転がると良いでしょう。
    ※椎間板ヘルニアの有無などによって症状の出方は異なるため、運動・ストレッチによって症状の出現・悪化がみられる場合には、無理に行わないようにしましょう。ストレッチや運動は、医師・理学療法士の指導のもと行いましょう。
<腰部脊柱管狭窄症の方におすすめストレッチ>
  • 仰向けで両ひざを抱えて、背中を丸めるストレッチ
(図)背中を丸めるストレッチ
  • 肥満を解消し、適正体重を保つ
    肥満傾向がある方はない方と比べて、靭帯・軟骨などにかかる負担が大きくなります。姿勢によっては、体重の何倍もの負荷が腰にかかることがあります。運動などを取り入れ、減量するようにしましょう。
  • お風呂で温めて血行を良くする
    血行促進は、筋肉の疲労回復や痛みの改善など自然治癒力の向上に繋がります。なるべくシャワーだけで済ませず、湯船に浸かって体を温めましょう。
  • 禁煙
    喫煙は軟骨・神経に悪影響を及ぼし、発症リスクを高めるとする報告があるため、禁煙をおすすめします。

まとめ

腰部脊柱管狭窄症では、「腰・お尻・脚に痛みやしびれが現れて長い時間続けて歩くことができない」という症状がある一方で、「少し休憩するとまた歩けるようになる」という間欠跛行がみられるのが特徴です。発症の最大要因は「加齢」なので、完全なる発症予防は難しく、脊柱管狭窄の自然治癒もほとんどありませんが、お薬やリハビリテーション治療、日常生活の見直しなどにより症状を和らげることは可能です。

また、症状の急激な悪化はあまり見られませんが、強い神経圧迫状態が長期間続くと、いざ手術を受けても十分な改善が得られないケースがあります。そのため、症状は我慢せず、早めに整形外科を受診しましょう。

当院では症状改善だけでなく、医師と理学療法士が連携したリハビリテーション治療と姿勢・動作矯正などによって、再発や新たな部位の痛みの発生を予防する「積極的保存療法」に力を入れています。

「腰・お尻・足の痛みやしびれ」「長距離が歩けなくなった」などお困りの方は、一度お気軽に当院までご相談ください。