disease
疾患

一般整形外科膝関節周囲

半月板断裂(損傷)

「半月板断裂・損傷(はんげつばんだんれつ・そんしょう)」は、膝関節にある軟骨のような組織「半月板」が損傷することによって、膝の痛み・膝のひっかかりが現れる疾患です。重症になると、膝に水が溜まったり、急に膝が動かなくなる「ロッキング」という状態となり歩けないほどの強い痛みが現れたりします。原因は大きく分けて2種類あり、10代20代の若い方ではスポーツなどによる怪我(外傷性)による発症、40代以降の中高年では加齢に伴う半月板の変性による発症が多くみられます。

半月板断裂・損傷の慢性化は軽症であっても、将来的な「変形性膝関節症」を引き起こす要因のひとつと考えられているため、きちんと治療したい疾患です。

「膝の痛み・違和感」がある方は、お気軽に当院までご相談ください。

半月板とは?

半月板(はんげつばん)は、膝関節の中にあるCの形をした繊維軟骨で、内側・外側に一つずつあり、膝にかかる負荷の分散と関節の位置の安定化を図る役割をしています。

(図)半月板の構成
(図)膝関節の構成

膝関節には他の関節にある「骨と骨を繋ぐ筋肉」がありません。その代わりとして、大腿骨(だいたいこつ)・脛骨(けいこつ)を連結する繊維性の「靭帯」、骨の表面を覆う「関節軟骨」、クッション的な役割の「半月板」が連携することで、スムーズに膝の曲げ伸ばしができるようになり、同時にひねり・ジャンプなどの動作も可能としています。

そのため半月板にかかる負担はとても大きく、強い衝撃以外にも、長年の負荷の蓄積や加齢(年月の経過)により傷つき、すり減っていきます。半月板が傷ついたり亀裂が入ったりすることを「半月板の断裂(損傷)」と呼びます。

また、アジア系人種に多い(数%~十数%)とされる、半月板が生まれつき半円状の「外側円板状半月板」をお持ちの方では、通常の半月板より面積が大きいので損傷を受けやすい傾向があります。小中学生で「膝の外側の痛み」を訴えた場合、「円板状半月板損傷」の疑いがありますので、整形外科を一度受診されることをおすすめします。

半月板断裂・損傷の症状

半月板断裂・損傷では、次のような症状が現れます。

  • 膝の痛み
    受傷直後では、損傷側の膝関節が痛みます。
  • 膝の腫れ
    関節内の炎症によって関節液や血液が溜まり、腫れるときがあります。
  • 膝の違和感
    膝の曲げ伸ばしの際、「ひっかかり」を感じることがあります。
  • ロッキング現象
    半月板断裂・損傷がひどいケースでは、歩けなくなるほどの強い痛みと共に、断裂した半月板やはがれた骨が挟まることで急に膝が動かなくなる「ロッキング」が起こるケースがあります。

半月板断裂・損傷の原因

半月板断裂・損傷の原因には、大きく2つに分けられます。

原因①スポーツなどの怪我(外傷性)

比較的10代~30代くらいまでの若い方に多い原因で、半月板断裂・損傷はスポーツ外傷の約15%を占めます。

主に切り返しなど膝を捻る動作が多い、または強い衝撃が膝にかかりやすいスポーツ(バスケットボール・スキー・バレーボール・サッカー・ラグビー・ラクロス・アメリカンフットボールなど)での受傷が目立ちます。

なお、怪我(外傷性)の場合、半月(板)だけが損傷するケースと、前十字靭帯損傷などに合併して起こるケースもあります。

原因②加齢に伴う半月板の変性

40歳以降になると、半月板自体が加齢に伴い変性していくので、「無理な体勢で膝をひねる」「立ち上がったときに、膝にわずかな外力がかかる」など、些細なことで損傷しやすい傾向があります。

半月板断裂・損傷の分類

半月板の損傷の形には、いくつかの種類に分かれます。

損傷の形態には、次のようなものがあります。

※損傷を放置すると、損傷の状態によっては、さらに関節軟骨を傷めることがあるので、注意が必要です。

  • 縦断裂
    半月板のC型に対し縦方向に亀裂が走る形の損傷です。半月板縫合手術の適応となります。
    縦に大きく裂けると、バケツの柄(取っ手部分)のような断裂に進行する可能性があります。「バケツ柄断裂」では、大きく裂けた部分が著しく不安定になり、膝関節に挟まって膝がロックされたように動かなくなる「ロッキング現象」が現れるケースもあります。
  • 横断裂
    半月板を分断するように横方向に亀裂が走る形の損傷です。
    完全にちぎれてしまうと、膝関節が不安定になります。
  • 水平断裂(変性断裂)
    半月板を水平に「2枚おろし」にしたような損傷で、半月板への負担の蓄積によって起こる損傷です。中でも、中高年に多くみられる加齢による半月板の変性から生じる断裂を「変性断裂」と呼びます。
  • parrot beak断裂
    縦断裂と横断裂が混ざった損傷で、半月板の断端が斜めに裂けて「くちばし(parrot beak)」のような形に見えます。関節の中に入り込んで、強い痛みを生じることがあります。

半月板断裂・損傷の検査・診断

問診や触診、X線検査・超音波検査などの画像検査から、半月板の断裂・損傷を推測することは可能ですが、半月板の状態を詳しく確認するためには、MRI検査が必要となります。

問診・触診

自覚症状・発症時のタイミング・病歴などについて、詳しく伺います。

また、痛みの誘発テスト(徒手検査)や、膝を動かしたときの引っかかり・音(クリック音)を確認します。

X線検査(レトゲン)

X線検査では骨の状態の確認が可能ですが、骨ではない半月板は写らないため、確定診断はできません。似たような症状を起こす別疾患との鑑別を行います。

超音波検査(エコー検査)

超音波検査は、レントゲン写真ではうつらない筋肉・腱・靭帯の損傷、内出血、軟骨、軟部腫瘍等の抽出に優れており、組織の炎症や癒着が観察できます。また、MRI検査では評価できない、関節などを動かしながらの検査が可能なので、より組織の動的な評価も行えます。

(図)超音波検査機

MRI検査

自覚症状の問診など診察から、「半月板断裂・損傷」が疑われた場合、通常MRI検査を行います。MRI検査では、骨以外の半月板や軟骨・靭帯を詳しく確認できるため、半月板断裂・損傷の確定診断が可能です。また、半月板の断裂状態には様々あるため、治療方針を検討するためにもMRI検査は有用です。

※MRI検査を実施する場合、対応可能な提携施設などにご紹介させていただきます。

半月板断裂・損傷の治療法

半月板が持つ重要な役割から、近年は「半月板を残す治療」が主流となっています。

そのため、まずは膝の安静を図りつつ、ヒアルロン酸注射や抗炎症薬、足底板療法、リハビリテーションなどの「保存的治療」から行います。保存的治療で改善が見られない、断裂範囲が広い、痛みが長く続いて日常生活などに大きな支障を来すなどの場合には、関節鏡を用いた切除術や縫合術などの外科的手術を検討します。

当院では、従来の保存的治療による痛みの改善に加え、再発や新たな部位の痛みの発生を予測して予防する治療「積極的保存治療」を実施しています。

医師と理学療法士*1が連携しながら、患者様一人一人に合わせたオーダーメイドの治療を行っております。

*1 理学療法士:国家資格であり、動作のエキスパート。医学的リハビリテーションの専門職。

保存的治療

症状や検査によって、損傷の具合が軽症および血流がある部位の損傷の場合には、保存的療法が有効です。

  • 安静
    受傷直後はシーネ(添え木)固定で安静にします。また、痛みに応じて、松葉づえを使用します。
  • 薬物療法
    消炎鎮痛効果のある内服薬・湿布(外用薬)などを使用して、痛みや炎症の改善に努めます。
  • 関節内注射
    関節内へ直接ヒアルロン酸を注入します。ヒアルロン酸は膝関節軟骨の成分のひとつであり、水分の保有率が高い物質です。注入すると潤滑油のような働きをするため、関節部の可動性を改善させ、痛み・腫れの緩和にも効果が期待できます。
  • リハビリテーション
    リハビリテーション(リハビリ)とは、医師の指示のもと理学療法士と共に行う治療です。
    半月板断裂・損傷に対するリハビリテーションでは、装具療法として「足底板」を用います。足底板は、医療用の靴の中敷き(インソール)で、膝にかかる負担を分散し、状態の悪化を防ぎます。さらに、運動療法も並行して行います。固定期間中は患部以外のトレーニングを中心に、患部への運動は痛みが落ち着いてから少しずつ始めます。

※「膝へのリハビリ」ページにリンクする(要確認)

<リハビリテーションとは?>

患者様の症状に合わせて、運動療法・徒手療法・温熱療法・物理療法*2・装具療法などを組み合わせて実施することで、痛みなどの症状緩和、血流改善・関節可動域の拡大、筋力強化、運動機能の回復・維持、動作練習・歩行訓練などの能力向上に努めます。

 *2物理療法:電気・光線・超音波・熱などの物理エネルギーを利用して、炎症や症状の改善、回復を促進する治療法。

外科的手術

保存的治療を行っても症状が改善しない、血流のない部分や縫合が可能な損傷、事故・怪我などで緊急性が高いケースでは、外科的手術を検討します。

※検査の結果、手術の必要があると判断された場合には、適宜近隣の対応病院をご紹介させていただきます。

手術には「切除術」と「縫合術」の2種類があり、通常「関節鏡*3」を用いて、下半身麻酔(腰からの麻酔)にて行います。

*3(参考)関節鏡下手術:筒状のカメラを患部に挿入して、状態を確認しながら行う処置・手術。機器挿入や関節内への水の還流のために1cm程度の切開を数か所行い、手術します。

ただし、手術を実施しても、痛み・炎症の持続、ロッキング現象・水が溜まるなどの機能障害、半月板の断裂・損傷の再発が起こることがあります。

また、退院後も継続してリハビリテーションを実施していく必要があります。

  • 切除術
    半月板や剥がれかけた軟骨を部分的に切り取る方法です。一般的に損傷部分が小さい、損傷程度が中等度以上、縫合が困難な場合に選択されます。ただし、半月板を広範囲に切除すると、将来的な関節軟骨のすり減りが早まり、変形性膝関節症の発症リスクが高まる恐れがあるため、できるだけ最小限の切除に留めます。
  • 縫合術
    損傷した半月板を強力な糸で縫い合わせ、元の位置に戻す方法です。
    一般的に、半月板の外側1/3には血流があるため、縫合のみで修復可能となるケースが多いのですが、内側2/3には血流がないため、基本的には縫合だけでは修復されにくいと考えられています。

 

よくある質問

1)「半月板断裂・損傷」で手術をするタイミングは、どういったときでしょうか?

近年は半月板の持つ重要な役割から、断裂・損傷が起きても「保存的治療」を中心に治療を進めていきますが、これは「歩けなくなるまで手術はしない」ということではありません。

半月板の損傷部分によっては、一度損傷すると自然に治りません。

次のようなケースでは、手術を検討した方がよいと考えられます。

  • 膝が強く腫れて、歩きにくい
  • 膝が引っかかって、思うように曲げられない・伸ばせられない
  • 痛みを伴い、膝を動かすとクリック症状(音がする)・ロッキング現象(引っ掛かり)がある

上記のように日常生活・スポーツ活動に支障を来している場合には、手術を検討すると良いでしょう。

2)半月板断裂・損傷の手術後のスポーツ復帰時期について教えてください。

復帰可能時期は、患者様の年齢・活動性・断裂状況などによって個人差がありますが、いずれの手術でも復帰には数か月は必要です。目安として、半月切除術では約2~3か月間、縫合術では約4~6か月間のリハビリ後となります。

なお、切除術では手術翌日から歩行は可能ですが、縫合術では、半月板がある程度修復されるまでは体重をかけないようにコントロールする必要があります。

3)半月板断裂・損傷の予防法を教えてください。

半月板断裂・損傷を予防するためには「膝関節への過剰な負担を避ける」ことが大切です。

生活習慣の見直しによって、ある程度の発症予防は可能と考えられています。

  • 太ももの筋力強化や全身の柔軟性の改善
    太ももの前面の筋肉(大腿四頭筋)を鍛えると、膝関節を安定させることができます。
    特に、プール内歩行は、効率よく筋力が鍛えられ、膝への負担を抑えてカロリー消費ができるので、おすすめです。
    また、スポーツをしている方は、さらにストレッチによる全身の柔軟性の改善・維持に努めることも大切です。
    ※ストレッチや運動は、医師・理学療法士の指導のもと行いましょう。
  • 肥満の解消
    肥満傾向がある方はない方と比べて、靭帯・軟骨などにかかる負担が大きく異なります。一般的に、体重1kg増えるごとに、膝への負担は約2kg増えるとされており、肥満を解消することが、半月板の損傷予防となります。

まとめ

半月板は膝関節を支える働きをしているため、日常的に負荷の高い部位となります。体重をかけた状態で膝をひねったり、衝撃が加わったりすることで損傷しやすく、スポーツが原因となる怪我(スポーツ外傷)全体のうちの約15%を占めるため、「半月板損傷=スポーツをしている人の怪我」といったイメージがあるかもしれません。しかし、半月板は加齢と共に経年変化するため、40歳以上では階段昇降など日常生活の些細な動作でもヒビや亀裂が入ることがあり、中高年の方にとっては意外と身近な疾患なのです。

半月板損傷をそのままにしておくと、軟骨がすり減り、要介護・寝たきりになりかねない「変形性膝関節症」に移行する可能性がありますので、きちんと治療することが望まれます。

現在の治療の主流は「半月板の温存」です。当院では医師と理学療法士が連携しながら、リハビリテーション治療によって再発や新たな部位の痛みの発生を予防する「積極的保存療法」に力を入れています。

「膝の痛み」「膝の引っ掛かり」がある方は、一度お気軽に当院までご相談ください。